
「不動産を担保にすれば、公庫の融資が通りやすくなるんですよね?」
起業家や事業者の方から、こういったご相談をよくいただきます。
たしかに、不動産を担保にすれば、金利が下がったり、借りられる金額が増えたりといったメリットが期待できる場面もあります。
ですが、創業時の融資(創業融資)については、基本的に『無担保・無保証人』で受けられる制度が整っています。
公庫側も「事業計画」や「経営者の人物像」を重視しており、担保の有無が審査通過の決め手になることは少ないのが実情です。
また、不動産を担保に入れるということは、返済できなかった場合にその資産を失うリスクがあるということ。
手続きにも時間がかかるため、「なんとなく安心だから」という理由だけで担保を入れるのはおすすめできません。
では、どんなときに不動産担保を検討すべきなのか?
実際に担保をつけることで何が変わるのか?
今回は、日本政策金融公庫の融資制度を活用するにあたり、不動産担保の「あり・なし」でどう違いが出るのかを比較しながら、専門家の視点でわかりやすく解説していきます。
目次
1.不動産担保を提供しても、融資審査が有利になるわけではない
● 公庫の審査で最も重視されるのは「事業そのもの」
不動産を担保に入れれば、「これで審査も安心」と思いたくなる気持ちはよくわかります。
ですが、日本政策金融公庫が本当に重視しているのは、「その事業がちゃんと成り立つかどうか」です。
たとえば、こんなポイントが見られます。
・売上や利益の見込みは現実的か?
・経営者としての経験やスキルはあるか?
・事業を継続するだけの資金繰り計画が立てられているか?
つまり、担保はあくまで「補足」のような位置づけで、審査の通過に直結するものではありません。
● 創業融資はもともと「無担保・無保証人」が基本
創業時の融資では、無担保・無保証人での融資が基本になっています。
実際に多くの起業家がこの制度を活用しており、もし返済がうまくいかなかった場合のリスクを抑えながら、担保を用意せずに資金調達に成功しています。
● では、不動産を担保に入れると、何がどう変わるのか?
「担保を出しても審査が有利になるわけではない」と言いましたが、それでも担保付き融資を検討する方がいるのはなぜか?
その理由は、金利や融資が受けられる金額に違いが出てくることにあります。
下の表で、無担保融資と担保を提供した場合の融資の主な違いを整理してみましょう。
【比較表】無担保・無保証人融資と担保を提供した場合の違い
項目 | 無担保・無保証融資 | 不担保を提供した場合 |
---|---|---|
審査の基準 | 事業計画・人物評価が中心 | 同左+担保価値も一部加味される |
金利 | 年2.7~4.0% (R7.5現在の基準利率※1) | 年1.6~3.5% (R7.5現在の基準利率) |
融資金額の 目安※2 | 最大1,000万円程度 | 担保の価値によって融資額が増額されることもある |
審査スピード | 比較的早い(2週間程度) | 担保調査の関係でやや長め(3週間~) |
リスク | 担保提供なしでリスクは小さい | 返済不能時に資産を失うリスクあり |
※1.税務申告を2期終えていない方(創業融資)
※2.実際に融資される現実的な金額です。(制度上の上限とは異なります。)
● 担保の「効果」はある、でも「最初に考えるべきこと」ではない
このように、不動産を担保を入れることで、金利の優遇、融資金額の増額など、一定のメリットは出てくる可能性がありますが、「最初に考えるべき」はやはり、事業計画の完成度や経営者としての覚悟・準備です。
担保を出すかどうかで迷っている方は、まずは無担保での申請を前提にしながら、必要に応じて担保の活用を検討する――というスタンスが現実的です。
次章では、実際に担保を入れることで得られるメリットについて、もう少し具体的に見ていきましょう。
2.担保を提供することで金利の優遇、融資額を高められる可能性がある
● 金利が下がることがある
不動産を担保に差し入れることで、日本政策金融公庫が定める、有担保で融資を利用される方向けの利率が適用されます。
これは、貸し倒れリスクがある程度下がることを踏まえて、融資側が条件を緩和するという考え方です。
たとえば、無担保・無保証人で利用できる創業融資の基準利率は、「年2.7~4.0%」とされていますが、
担保を提供すると「年1.6~3.5%」と低い水準となっています。(※R7.5.1現在)
つまり、「まとまった資金を借りたいけど、返済負担も抑えたい」というときには、担保の提供が有効に働くことがあるのです。
※ただし、担保を提供したからといって、必ず金利が下がるわけではありません。
実際には、事業内容や申込内容とのバランスで判断されます。
また、担保を出さなくても、一定の条件を満たすことで「特別利率」が適用され、結果的に担保ありの場合よりも低い金利になるケースもあります。
💡用語解説:基準利率とは?
基準金利とは、日本政策金融公庫が融資の際に設定する「基本の金利」のことです。
実際の融資金利は、この基準金利をベースに、申込内容などを加味して決まります。
たとえば、条件を満たすと「特別利率」が適用され、基準金利よりも低い金利で借りられることもあります。
● 担保を提供することで融資額が引き上がることがある
担保を差し入れることで、融資額が引き上がることがあります。
これは、担保を差し入れることで、公庫側が「万が一返済が滞っても回収が見込める」と判断するためです。
例えば、本来であれば、事業計画や自己資金のバランスだけでは500万円が限度と判断される場合でも、
担保の提供によって、融資額が800万円まで引き上げられるといったイメージです。
ただし、ここで注意したいのは、担保を差し入れたからといって、融資が確約されていること、いきなり3,000万円や5,000万円といった大型融資が受けられるわけではないということです。
あくまで、「無担保で評価される上限に対して、リスクが下がった分、少し上積みされる」と考えるのが現実的です。
● 金利・融資額のメリットが得られる条件とは?
実際に金利優遇や融資額アップを受けられるかどうかは、以下のような要素が関係します。
条件 | ポイント例 |
---|---|
担保の種類・評価額 | 公庫が評価できる不動産であるかどうか(自宅・土地など) |
事業計画の完成度 | 数字の裏付けがあるか、現実性があるか |
経営者の信用・実績 | 過去の借入返済履歴、事業経験など |
借入金の使い道 (設備か運転資金か) | 設備投資の方が評価されやすい傾向 |
こうした条件をもとに、公庫側が「リスクに見合うか」を総合的に判断して、融資の可否、そして金利等の優遇の可否が決まります。
よくある疑問:「ローンが残っている不動産でも担保にできる?」
これは非常に多い質問の一つです。
答えは、「できることもあるが、条件次第」です。
たとえば、以下のようなケースが考えられます。
不動産の評価額がローン残債を大きく上回っている場合 → 一部担保にできる可能性あり
他の金融機関が第一順位で抵当権を設定している場合 → 公庫が担保に入れるのが難しい場合も
※公庫の公式HPでは、「担保の順位は必ずしも1番である必要はありません。」と記載があります。
つまり、ローンが残っていても絶対NGというわけではありませんが、評価額と残債のバランスや登記の状況次第で対応が異なるため、まずは不動産登記簿謄本または登記事項証明書(全部事項)等を持参し、公庫の窓口で相談してみることが大切です。
3.担保の提供を検討した時の注意点
● 不動産を担保に入れるということは、「失うかもしれない」ということ
まず、一番大切な前提があります。
それは、担保を提供する=返済できなかったときにその資産を手放す可能性があるということです。
もちろん、日本政策金融公庫は「すぐに取り立てる」というような金融機関ではありません。
返済が厳しいときも、相談に乗ってくれます。
ですが、万が一のときに「自宅」や「土地」が差し押さえ対象になるリスクは、絶対に忘れてはいけません。
● 審査に時間がかかる・手続きが増える
担保を提供すると、どうしても審査のプロセスが複雑化します。
・担保となる不動産の「評価」
・所有権の確認
・他の抵当権がついていないかの調査
・担保設定のための登記手続き
これらには時間がかかり、結果として融資実行までに1~2週間、場合によっては1か月以上余分にかかることもあります。
「すぐに資金が必要」という場合には、むしろ担保をつけない方がスムーズに進むかもしれません。
● 登記費用や手数料など、見えにくいコストが発生する
担保を提供する際には、抵当権を設定するための登記手続きが必要となり、司法書士報酬や登録免許税などの費用がかかります。
これには、司法書士への依頼料や登録免許税など、数万円~十数万円のコストがかかるケースがあります。
金利が少し下がったとしても、「登記費用の元が取れない」ということもありえます。
事前に概算費用を確認しておくことをおすすめします。
4.まとめ:不動産担保を入れるべきかどうか?専門家の視点で考える最終判断
● まずは無担保でチャレンジ、それが基本スタンス
最初のチャレンジだからこそ、リスクを最小限にしてスタートを切る。
それが創業融資の本質です。無理に担保を差し入れる必要はありません。
ここまでお伝えしてきた通り、創業融資や日本政策金融公庫の多くの融資制度は、無担保・無保証人が基本です。
特に創業直後や、小規模事業者にとっては、まずはこの「無担保で借りられる制度」をフルに活用することがスタートラインです。
無理に担保を入れなくても、事業計画がしっかりしていれば、資金調達は可能です。
● 専門家のサポートを活用することで判断ミスを防げる
資金調達に不安があるなら、一人で悩む必要はありません。
税理士や認定支援機関などの専門家は、あなたの事業状況や希望に応じて、最適な融資制度や資金調達プランを提案してくれます。
「担保を提供すれば融資は通るだろう。」という考えは捨ててください。
しっかりとした事業計画を立てた上で、担保を提供すべきか否かの判断をしましょう。
● 最後にもう一度、ポイントを整理しましょう。
ここまで、不動産担保付き融資のメリット・デメリットや判断のポイントを見てきました。
「結局、自分は担保を入れるべきなのか?」と迷っている方のために、判断の目安を簡単にまとめておきます。
ポイント | 判断の目安 |
まずは? | 無担保で申し込み → 必要に応じて担保も検討 |
担保のメリットは? | 金利の優遇、融資上限額の増加など |
注意点は? | 審査の遅延、登記コスト、資産を失うリスク |
迷ったときは? | 専門家に相談して最適なプランを設計する |
不動産を担保として提供することは、融資を有利に進める手段のひとつですが、リスクもあります。
大切なのは、「本当に必要か?」を冷静に判断すること。
迷ったときは、無理をせず専門家に相談してみてください。
あなたにとって最適な資金調達方法が見えてきます。
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