
いまや、役所の手続きや申請もどんどんオンライン化が進み、家にいながらさまざまな手続きができる時代になりました。
その流れで、会社設立も「オンラインで完結できる時代」になっています。
「質問に答えていくだけで、かんたんに申請できる」
そんな案内文を見て、国(デジタル庁)が運営する「法人設立ワンストップサービス」を私も試しに実際に使ってみました。
私は、普段から起業支援をしている税理士です。
ですが、正直なところ…「これは、初めての方には相当ハードルが高い」と感じました。
確かに、質問に対して、「はい」「いいえ」「わからない」の3択から選び進めていくことが出来るのですが、専門用語やポイントの理解が必要で、質問を正しく理解し、申請するには10時間以上の事前学習が必要です。
しかも、内容に少しでも不備があれば、申請が却下されたり、後から修正に追われたりするだけでなく、様々な手続きに支障が出て、実際の不利益に繋がる可能性もあります。
だからこそ私は伝えたいのです。
「会社設立は、専門家に任せた方が、結果的にラクで安心」です。
この記事では、実際に専門家が体験したうえで感じた「オンライン申請のリアルな難しさ」と「専門家に依頼することの価値」について、これから会社を設立する方に向けて、わかりやすくお伝えします。
目次
1.法人設立ワンストップサービスとは?
法人設立ワンストップサービスとは、国(デジタル庁)が運営する、会社設立時に必要な複数の手続きを一括でオンライン申請できる無料サービスです。
会社設立だけでなく、設立直後に必要な税務・社会保険などの関連手続きも一括で完了できる制度です。
具体的には、以下のような手続きを一気にカバーできます。
手続き内容 | 担当機関 |
---|---|
登記申請(定款認証含む) | 法務局 |
法人設立届出書・青色申告承認申請書 | 税務署 |
健康保険・厚生年金保険新規適用届 | 日本年金機構(年金事務所) |
雇用保険適用事業所設置届・被保険者資格取得届 | ハローワーク |
特徴としては、以下の点が挙げられます。
・窓口へ行くお手間や、手続提出の待ち時間を省くことができる。
・メンテナンス時間を除き、24時間利用可
・すべての手続きを一括管理できる
・印紙代や専門家報酬のコストを削減
これだけ見ると、「簡単そう」「便利そう」と感じるかもしれません。
確かに、制度としては非常に優れた仕組みです。
しかし、実際に使ってみると、“制度の便利さ”と“ユーザーに求められる知識”とのギャップに直面することになります。
たとえば…
・専用ソフトウェアのインストールが必要:一般的なPCの知識が必要
・会社設立に関係する税務の知識がある前提で話が進んでいく
・定款は認証済みであることが前提。(法人設立ワンストップサービスだけでは完結しない。)
・書類の内容や添付書類の形式など、「形式を満たせばOK」では済まない判断ポイントが多い
つまり、制度が優れていても、使いこなすには“相応の事前知識”が必要なのです。
以下に、「法人設立関連手続かんたん問診」の質問の一部を、引用します。
(例1)
Q.法定の帳簿または法定の書類を備付け、日々の取引を正確に記録し、それらを保存することを条件に、青色申告の承認を受けた場合は、以下のような課税特典が受けることができます。
(例)
・欠損金の繰越控除
・欠損金の繰り戻し還付
・特別償却と特別控除
・中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入
・その他
課税の特例課税特典を受けるために青色申告の承認申請の届け出を行いますか?
(例2)
Q.減価償却の方法には、主に定額法と定率法があります。
「減価償却資産の償却方法の届出書」を提出しない場合、機械装置、車両運搬具、器具備品等の減価償却は「定率法」となります。
「定額法」を選択する場合には「減価償却資産の償却方法の届出書」を提出する必要があります。機械装置、車両運搬具、器具備品等の資産の場合、減価償却資産の償却方法を「定額法」にするための届け出を行いますか?
これらの質問に、「はい」「いいえ」「わからない」の3つ選択肢から選び進めていきます。
「わからない」を選択したところで、結局のところどうすべきかについては、自分で知識を得て解決するか、専門家に相談するしかありません。
そして実は、このサービスを使う以前の“準備の段階”から、すでに高いハードルがあることにも気づかされました。
法人設立ワンストップサービスを利用する前に準備すべきものがいくつかあります。
準備するもの | 理由・内容 |
---|---|
会社情報 | 商号、所在地、資本金、事業目的、役員構成などを事前に整理しておく必要あり。 |
認証済みの定款 | 公証人の認証を受けた定款(電子定款)が必要です。 |
マイナンバーカード | 電子署名に必要。代表者個人のものを使用します。 |
これらを用意し、正しく連携させて初めて電子申請が可能になります。
つまり、ワンストップとは言いつつも、実際は「スタートラインに立つまで」にも多くの準備と知識が求められるというのが現実です。
2.自分でやる?専門家に依頼する?判断の目安はここ
ここまで見てきたように、法人設立ワンストップサービスは非常に便利な制度ではありますが、すべてを自力で行うには“相応の知識と労力”が求められるのが実情です。
では、自分でやるべきなのか?それとも専門家に依頼すべきなのか?
その判断に迷っている方のために、以下に簡単な目安を整理しました。
✅ 自力でのオンライン申請が向いている人
以下の条件にあてはまる方であれば、法人設立ワンストップサービスを使って、コストを抑えながら会社設立を進めることも現実的です。
・ITリテラシーが高く、電子証明書やPDFなどの操作に慣れている
・会社設立に関する知識をある程度自己学習する時間と意欲がある
・一人会社など、設立メンバーが少なく意思決定がスムーズ
・資金に限りがあり、できる限り設立コストを抑えたい
・設立後のサポート(融資・補助金・税務)は別で検討している
こうした方であれば、多少の時間はかかっても、制度のメリットを最大限活かしながら、費用を最小限に抑えることができます。
✅ 専門家に依頼すべき人
一方で、以下のような方は、最初から専門家に依頼することを強くおすすめします。
・書類作成や電子申請に不安がある
・起業に集中したく、手続きに時間をかけたくない
・会社設立と同時に、あらゆる不安を解決したい
・将来的な節税やキャッシュフロー管理まで見据えて設計したい
専門家に依頼することで、設立ミスによるやり直しや機会損失のリスクを回避できるだけでなく、設立後の「経営の土台作り」までスムーズに進めることができます。
初期コストを抑えながら、プロのサポートを受けられるのは大きなメリットです。
結論:少しでも不安があるなら、まずは専門家に相談してみよう
「オンラインでできるから、なんとなく自分でやろうかな」
と軽く考えて進めてしまうと、思わぬ落とし穴にはまることも少なくありません。
だからこそ、少しでも不安があるなら、まずは専門家に相談することをおすすめします。
無料相談を受け付けている専門家も多いため、まずは話を聞いてみてから、自分に合った方法を選ぶのがベストです。
特におすすめなのが、税理士への相談です。
税理士は、単に税務だけを見る存在ではなく、会社設立全般に関する知識と実務経験を持っていることが多く、会社設立全般をサポートできるケースも少なくありません。
また、会社設立後には必ず必要になる「税務署への届出」や「青色申告の承認申請」、「開業後の記帳や申告、節税対策」など、設立直後から発生する税務手続きまで一緒に相談できるのは、税理士ならではの強みです。
「設立は自分でなんとかできたとしても、その後の経理や資金繰り、税務対応をすべて自力でこなすのは、正直かなり厳しいのが現実です。」
会社を設立した後には、
・各種届出(青色申告、消費税関係など)
・売上や経費の管理
・資金調達の検討(融資・補助金)
・従業員の採用、給与計算、年末調整
・毎年の決算対策 など
の様々な業務が降りかかってきます。
これらは一度きりではなく“継続的に”発生する業務であり、経営の土台を安定させるうえで非常に重要な領域です。
だからこそ、設立後の経営を見据えて、最初から税理士に相談しておくことが大きな安心とメリットにつながるのです。
3.まとめ|“かんたん”に見える会社設立。でも本当に大事なのは、その後の経営
法人設立ワンストップサービスは、たしかに制度としては便利で魅力的です。
しかし、実際に使いこなすには相応の準備・知識・時間が必要であり、初めて会社を設立する方にとっては、決して“かんたん”とは言い切れないのが現実です。
設立手続きでつまずくと、その後の融資・補助金・税務にも影響が出ることがあります。
そして何より、会社設立はゴールではなくスタート。
本当に大事なのは「設立後の経営」をどう安定させるかです。
だからこそ、
✅ 設立をスムーズに進めたい
✅ 無駄なトラブルや手戻りを避けたい
✅ 経理や税務の土台もきちんと整えたい
そう考えるなら、最初から税理士に相談して進めることが、最も安心で確実な方法です。
税理士は、会社設立の実務に精通しているだけでなく、設立後の経営を継続的に支えるパートナーでもあります。
「設立+顧問契約セット」などで会社設立費用を抑えられるケースもあるため、まずは一度相談してみることをおすすめします。
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