「脱サラ起業=失敗しそう」と考えている人は非常に多いものです。
経済産業省の2022年中小企業白書・小規模企業白書によると、日本で起業が少ない原因について39.2%もの人が「失敗に対する危惧」と答えています。
確かに、準備を怠った見切り発車の脱サラは失敗の確率も高くなるでしょう。
ですが、逆に考えれば、起業までの手順を踏み準備を万端にすれば、理想の脱サラ起業ができる確率が高まると言えます。
今回は脱サラ起業を目指す方に向けて、失敗しないための手順とコツを解説いたします。
目次
1.脱サラ起業で失敗しないための事前準備5ステップ
起業までの準備は5ステップです。
下記の手順に従って、一歩一歩確実に歩を進めましょう。
ステップ1.スキルを身につける
(1)経営の原理原則を学ぶ
資本主義社会の中で培われた「経営のキホン」を「経営の原理原則」と呼んでいます。
イオンやマクドナルド、すき家、京セラといった名だたる大手企業がこの原則を学び事業を拡大してきました。
「こうすれば、こういう結果が出やすい」という公式のようなものですので、学んでいくと理想の未来が掴みやすくなるのです。
経営者の嗜みとして、まずは経営の原理原則を身につけましょう。
<学び方>
本を読んだり、経営塾に参加したりすることで学べます。
本なら自分の好きな時間に好きなだけ読み進められて便利で非常に効果的なインプット方法です。
立派な経営者は、今でも本を読んでインプットをしています。
経営塾なら仲間ができるため、学習以外の面で得られるものがあるでしょう。
どちらの方法でも問題なく学習できますが、よくある失敗事例で、経営の本を見て、学んで・読んで・セミナーを受けて、楽しむだけのエンタメにならないように、実行するために学んでください。
(2)マーケティングを学ぶ
マーケティングとは、商品やサービスが売れるような仕組みを作ることです。このマーケティングの基礎を学ぶことは必須です。
具体的には「顧客ニーズの把握」や「顧客に合わせた商品開発」「来店を促すプロモーション戦略」等で、営業セールスをする前段階です。
脱サラする前にマーケティングの基礎を学習し知識として身に着けておきましょう。
<学び方>
本や動画、オンラインスクール等で学べます。
明確な目標が欲しい場合はマーケティング関連の資格取得を目指しても良いでしょう。
マーケティング・ビジネス実務検定やネットマーケティング検定のような試験が豊富に揃っています。
学習する際の注意点として、起業後に使える知識と使えない知識が混ざっていることを意識しておいてください。
経営の原理原則とは異なり、マーケティングはいわば「売るまでの手法」です。
たとえば、飲食店でのマーケティングとネットショップのマーケティングでは大きく異なりますよね。
どの教材も満遍なくマーケティングが学べる反面、無駄な知識もついてきます。
情報を取捨選択して上手に学習してください。
まずは、マーケティングの基礎を学びましょう。
ステップ2.情報を集める(市場調査)
市場調査とは、これから始める事業が成長する市場であるかどうかをチェックするための調査です。
たとえば過疎地にラーメン屋を開くのは非常にリスクの高い行為です。
どれだけ味が良くても来店者数が見込めずに閉店に追い込まれるでしょう。
こういった失敗を防ぐには、市場調査をしっかり行い「成功できるのか」を見極めなければなりません。
調査会社などプロに依頼する方法もありますが、まずは自分のできる範囲で調査を行ってみましょう。
市場の調査には主に次の3つの視点があります。
(1)業界全体の調査
(2)商圏の調査
(3)競合他社の調査
それぞれ詳しく解説していきます。
(1)業界全体の調査
まずは、起業をする業界全体の動向を調査しましょう。
「業種+市場」「業種+市場動向」「業種+市場調査」などと検索をかけると市場調査の結果などを調べることができます。
また、国の国勢調査や民間の団体や協会などが発表している統計データ等も参考になります。
ここでのポイントは、これから起業しようとしている業界が成長分野なのか、衰退分野なの確認することです。
これから起業するなら、断然「成長分野」で起業すべきです。
成長分野で起業するメリットとしては、必然的に仕事が多くなること、よってやりがいも大きく、自分自身の成長にも繋がります。
もちろん年収アップの期待も大きいです。
一方、衰退分野は当然需要が減っているということですので、年収アップの期待も薄く、常に仕事がなくなるかもしれないリスクと隣合わせであるということです。
これから起業を考えている方は成長分野での起業を目指し、自分にあった業界を見つけてみてください。
成長分野の職種については、こちらの記事で紹介しています。
(2)商圏の調査
店舗を構え、対消費者で事業をする、飲食店や美容室、小売店などは商圏の調査が重要です。
まずは、商圏の人口統計調査を行い、商圏内にターゲットとなる顧客がどれくらい存在するのかを確認しましょう。
自店を中心として半径数Kmの円を書き商圏を定めます。
業種や消費者の移動手段、道路環境などにより調査すべき商圏の範囲が異なりますが、一般的には次のように考えます。
商圏の種類 | 距離 | 距離 | 業種例 |
第一次商圏 | 徒歩10~15分(~1.2㎞) | ほぼ毎日 | コンビニ・スーパー・飲食店(定食屋・ラーメン店など) |
第二次商圏 | 自転車で10~15分 車で10~15分(3~5㎞) | 週1~2回 | ドラックストア・大型小売店・居酒屋など |
第三次商圏 | 車や電車で30~40分以上 | 1~3カ月に数回程度 | 高価格帯飲食店・専門店・家電量販店・塾・教室・美容室など |
商圏の範囲が特定出来たら、商圏範囲内の人口のデータを総務省統計局の「j STAT MAP」を使って調べていきます。無料で使えるシステムです。
地図で見る統計(j STAT MAP) https://jstatmap.e-stat.go.jp/trialstart.html
地図上に円を書き商圏内の人口・年齢別の人口・世帯数など様々なデータを調べることができます。
統計調査だけでなく、実際に足を運んでみましょう。
交通量や人通り、道路環境なども曜日や時間帯を変えて実際に自分の目で確認するようにしてください。
統計調査だけではわからない、そこに居る人の人物像や行動パターンが見えてくることもあります。
(3)競合他社の調査
同業他社に関しては、実際に商品を購入したりサービスを受けたりして、品質や価格をチェックしてみましょう。
店舗がある業種の場合は曜日や時間帯を変えて何度か来店し、顧客の属性や、どのようなものを購入しているかなども観察するのも良いです。ネット上の口コミもチェックしましょう。
すると、お客様がどのようなニーズを持っているのか、何に不満を持っているのかがわかり、自社で扱うべき商品やサービスが見えてくるはずです。
以上が、市場調査における3つの視点です。
事前に市場調査をしっかりと行い、成長が期待できる市場であるか確認しましょう。
人生をかけた起業という決断にわざわざ衰退している市場で起業をするのはリスクが高すぎます。
特に起業する業種・業界にこだわりがない人こそ慎重に市場分析を行い自分に合った成長分野を見つけ起業を目指しましょう。
ステップ3.具体的な計画を立てる
起業する業種が確定したら、安全に起業するために「事業計画書」を作成しましょう。
事業計画書とは、その名のとおり事業の計画についてまとめた資料のことです。
事業計画書には開業費用や起業直後のお金の流れ、売上予測等を書き込みます。
初めて事業を興すにあたり、お金の不安がつきまとうのは当然のこと。
「開業資金が足りるか分からない」「いつまでに売上が上がれば良いの?」
事業計画書があれば、このような疑問が解消されます。
事業計画書は、インターネット上にテンプレートが豊富に揃っていますが、まずは日本政策金融公庫の「創業計画書」を作成してみましょう。A3サイズ1枚の計画書であるため、初めてでも書きやすいです。
創業計画書の詳しい書き方については、こちらの記事を参考にしてみてください。
ステップ4.専門家に相談する
何か困ったら、専門家に相談することをおすすめします。
成功を掴むためには、疑問を解決し不安なく起業することが絶対条件ですが、全て自分ひとりで解決する必要はありません。
本業に専念するためにも、自分の苦手なことや専門外のことは、それぞれの分野の専門家に頼ることを意識してみてください。
また事前に専門家と繋がりを作っておくと、起業直後の困りごとも相談がしやすくなります。
起業時に頼れる専門家は、主に税理士・司法書士・行政書士です。
ここでは、お悩み別に、頼るべき専門家を紹介していきます。
お悩み①とにかく起業に不安だらけ、色々相談してみたい
頼るべき専門家:税理士
税理士は、会計・税務の専門家ですが、会社設立に関する知識全般があるため、起業に関する相談や資金調達、起業後の会計・税務の相談を受けることができます。
会社設立の登記や許認可の申請はできませんが、司法書士や行政書士と提携している場合が多く、会社設立の窓口になってくれます。
まずは、初回無料相談を受けてくれる税理士に相談すると起業に関する道筋を立ててくれるでしょう。
お悩み②会社設立の登記だけをお願いしたい!
頼るべき専門家:司法書士
会社設立のための登記を代行できる専門家は司法書士のみのため、会社設立登記のみを依頼したい場合は、司法書士に依頼すると良いでしょう。
お悩み③必要な許認可について相談したい!
頼るべき専門家:行政書士
許認可が必要な業種で起業する場合は、行政書士に相談するといいでしょう。
会社設立の登記代行はできませんが、同時に司法書士に設立登記の依頼をしてくれます。
税理士・司法書士・行政書士の他にも、地域の商工会議所や国が運営するよろず支援拠点当でも起業に関する相談をすることができます。
今はネットで様々な情報を得ることができますが、情報の取捨選択は難しいものです。
専門家の生の声を聴くことで、安心して事業をスタートさせることができます。
ステップ5.いざ起業!
起業に関する不安や疑問を解消できたら、実際に起業しましょう!
これまでのステップで準備は万端のはずですから、後は踏み出す勇気だけ。
起業を成功させて、あなたの夢を叶えてください。
2.失敗しない起業の5つのコツ
これまで、起業のステップを紹介してきましたが、すべて実行しても絶対に失敗しないということではありません。
一大決心して起業し失敗したら心が折れてしまいかねませんよね。
ここでは失敗する確率を最小限に抑えるためのコツを紹介いたします。
2-1.自己資金を多めに準備する
自己資金はできる限り多めに準備しましょう。
自己資金が多ければ多いほど、起業の失敗確率は下がります。
少なくとも、起業のために必要な資金の3分の1は自己資金を準備しておき、足りない部分を創業融資などで調達するようにしましょう。
自己資金は、サラリーマンのうちに目標を決めて毎月コツコツと貯めていくようにしましょう。
このような計画性は経営にとっても重要なものとなります。
また、コツコツと自己資金を貯めてきた形跡は、融資の審査においても起業に対する熱意と高い計画性と見られ、プラスに働きます。
2-2.創業融資を活用する
自己資金があっても、創業融資は積極的に活用しましょう。
全て自己資金で起業ができれば理想的ですが、起業時には内装工事や設備の購入など、膨大なお金がかかるのが事実です。
そのため、多くの方が融資を受けて起業をします。
また、一般的に事業が軌道に乗るまで6カ月はかかると言われており、その間たとえ売上が0だとしても、家賃や光熱費、従業員への給与の支払いは発生してきます。
そのため、事業が軌道に乗るまでの間を乗り切るための体力としての運転資金も、創業融資を受けて多めに確保しておくべきです。
起業時の融資は、日本政策金融公庫の創業融資がおすすめです。
創業間もない事業者や中小企業にとって最もメジャーな資金調達の方法です。
日本政策金融公庫とは、日本政府が100%出資している政策金融機関であり、中小企業や個人事業主にもなんとかして融資をしたいという姿勢で接してくれます。
また、無担保・無保証人で融資を受けられる制度もあり、これから起業する方にとって多くのメリットがあります。
日本政策金融公庫の創業融資について詳しくはこちらの記事を参照してください。
2-3.補助金を活用する
補助金の獲得にも積極的にチャレンジしましょう。
補助金とは、原則として返済不要でもらえる資金のことです。
融資とは異なり返済不要ですから、不安の多い起業時でも思い切りチャレンジすることができます。
ただし、補助金は申請して必ずもらえるものではありません。
補助金は、様々な条件や経営計画書・事業計画書の審査をクリアし採択されなければなりませんので注意が必要です。
採択率は、補助金の種類にもよりますが、50~60%前後です。必要に応じて専門家に相談することで、採択率を格段にUPさせることも可能です。
補助金に関して詳しくはこちらの記事を参照してください。
起業時におすすめの補助金は「小規模事業者持続化補助金」です。
小規模事業者持続化補助金とは、小規模事業者等の地道な販路開拓や販路開拓に合わせて行う業務の効率化の取組を補助してくれる制度のことです。地域や業種を問わず、申請することができます。
販路開拓のためのチラシや看板をはじめ、HPやネット広告、新事業で必要な機械装置など幅広い経費が補助機の対象となるためとても利用しやすい補助金です。
補助金額は50万円~特例の適用で250万円まで増額することできます。
実際に活用されている事業者様も多く、補助金を活用したいと考えたら、まず小規模事業者持続化補助金の活用を検討してみましょう。
小規模事業者持続化補助金について詳しくはこちらの記事を参照してください。
2-4.小さく始める
初めはなるべく規模を小さくしてスタートすることをおすすめします。
起業の失敗確率を下げる方法はあっても、絶対に失敗しない方法はありません。
そのため、仮に失敗した場合の被害を最小限に抑えることも考えるべきです。
具体的には「小さな規模から始める」「副業から始めてみる」などの方法があります。
レンタルサロンや、場所貸しサービスを利用することで飲食店などでも自分の店舗を持たずに開業することができます。
自分の店舗を持つ場合でも、内装は必要最低限にしたり、中古品を探すなど費用をなるべくかけない工夫をしましょう。
理想の店舗にしたいと内装工事に膨大な費用をかけるケースが多くありますが、まずは必要最低限事業がスタートできる設備をそろえて、徐々に理想のお店に近づけるようにすることをおすすめします。
近年、働き方改革が進み副業を許可する企業も増えています。
まずは、副業から事業をスタートすることも1つの手段です。
お試し期間を設けることで、自分に合っている・合っていないなどの判断もできます。
経済産業省による2019年度小規模白書によると、副業から本業へ移行した人の割合は68.0%という結果も出ています。
2-5.始めやすい事業を選ぶ
起業する事業にこだわりがないなら、始めやすく失敗しにくい事業を選択すべきです。
始めやすく失敗しにくい事業とは、下記3点を押さえられる事業のことです。
原価率が低い
原価率が低い=経費が抑えられるので、売上が少なくても利益が出やすいです。
飲食店であれば、食べ物の原価率は30%前後ですが、飲み物の原価率は25%と低いです。
ですから飲み物中心のお店は利益が出しやすくなります。
在庫を抱えない
在庫とは、まだ売れていない商品のこと。
売上が上がる前に仕入れ代金が発生するため、まとまった資金の少ない脱サラ起業には不向きなのです。
在庫を抱えない業種として代表的なのが、WEBデザイナーやエンジニアでしょう。
依頼者の要望に沿って成果物や技術を提供する仕事で、在庫とは無縁の存在です。
高いスキルが求められる反面、在庫を抱えずに済みます。
初期投資額が少ない
多額の初期投資が必要となる店舗型の起業の場合、およそ1,000〜2,000万円程度がかかると言われています。
これだけの資金を集めるには、自己資金だけでなく融資も検討すべきでしょう。
融資を利用すると金利が発生しますから、安定した利益が出せるようになるまでに時間がかかります。
一方で、初期投資が少ないハウスクリーニングのような業種であれば、0〜100万円程度で始められます。
資金回収までの期間も短くて済みますし、何より利益が出やすいので経済的にも精神的にも安定します。
「フランチャイズなら未経験でも始めやすい?」
フランチャイズ加盟店になれば、ロイヤリティを支払う代わりに手厚いサポートが期待できます。
未経験業種でも始めやすいことは間違いありませんが、注意しなければならないポイントもあります。
詳しくはこちらの記事を参考にしてください。
3.まとめ
近年では、副業を推奨する企業も増えたり、インターネットの普及によりさまざまな働き方ができるようになり起業に対するハードルも大きく下がりました。
以前は、一世一代の挑戦とも言われた脱サラですが、今やその方法も様々。
リスクを最小限に抑えた方法でチャレンジすることもできます。
ただし、思いつき・行き当たりばったりでの脱サラは危険。
事前準備を怠らず、失敗しない起業のコツをおさえてチャレンジしていきましょう。
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